M-1に出場した話

中学生の時、漫才で有名なあのM-1グランプリに出たことがあった。

M-1はお笑い芸人が出るものなのかと思っていたがそうではない。プロアマ問わず一般人の我々も出場できる、本当に日本で一番面白い人を決める大会なのである。

 

きっかけは些細なことだった。中学3年生のある日、近所のイオンに杉浦太陽がやってくるという噂を聞き、友人と観に行った。

その友人とはめちゃくちゃ仲が良いわけでもないが別に悪くもなく、ただ近所に芸能人が来ると聞きつけるとなぜかこの友人と芸能人を見物しに行っていたのだ。なので芸能人見物仲間だと言える。イオンに来る芸能人はだいたいお笑い芸人が多かったが、その日は珍しく俳優だったので、ウキウキしてイオンに向かった。

イオンに着くと、たくさんの買い物客に囲まれながら杉浦太陽トークをしていた。なるほど、今まで見てきた売れないお笑い芸人とは流石オーラが違う。遠くから見ても杉浦太陽と分かるくらいにはキラキラしている。

長々と話したトークの最後に、杉浦太陽と握手できるとの告知がされた。その日出版した杉浦太陽の本を購入すれば本にサインをして頂き、杉浦太陽と握手ができるらしい。

杉浦太陽がめちゃくちゃ好きかと言われればそうでもないし、じゃあちょっと好きかと言われれば別にそうでもなく、ただ単に存在を知っているよ程度であったが、あれだけキラキラしていれば近寄りたくなるものである。私と友人はそれぞれ杉浦太陽の本を買うことに決めた。

無事に本を購入し、杉浦太陽に握手してもらうための長蛇の列に並んでいた。その間に友人と、杉浦太陽に何て話しかけようか、と言う話になった。

いつも応援しています!とか、頑張って下さい!なんてのはわざわざ私なんかが言わなくても、杉浦太陽くらいになればもう散々みんなから言われているはずだ。私達みたいな地味な中学が量産型なセリフを吐いたところで、特に印象には残らないだろう。

せめてちょっとは覚えて欲しいよなぁと言うことになり、色々と話していると友人が「私達芸人目指してるんで、応援して下さいって言ったらどう?」と言ってきた。なるほど、応援していますではなく、むしろそっちが我々を応援せよと言えば多少は印象に残ってくれる気がしたので、それでいこうということになった。

杉浦太陽に刻々と近付き、いよいよ私達が握手をする番になった。友人が先に握手をしたのだが、言い出しっぺである友人はガチガチに緊張していて、何も言わずにそのまま握手をし終わった。せっかくのチャンスなのに何をしてやがるという気持ちになりつつ、私の番が来た。握手をしてもらい、横で待つ友人を指して言った。

「あの、私達お笑い芸人を目指してるんで、よければ応援して下さい!」

すると杉浦太陽は「おおそうなんか!M-1頑張ってな!!」と言った。

杉浦太陽にこのセリフを言わなくてはということで頭がいっぱいで、せっかくの杉浦太陽を前にして彼の顔をじっくり眺めなかったのが心残りだが、杉浦太陽に何かしら印象を残せたのでは、と非常に嬉しい気持ちになった。

握手をし終わり、「杉浦太陽やばかったな!!」「頑張ってなって言ってきてめっちゃ優しかったな!!!」と2人とも興奮していた。興奮しすぎて、なぜかそのまま「もうこれはM-1に出るしかない!!」「そうだわ、M-1に出よう!!」と言うことになり、そのままM-1にエントリーしてしまったのである。

昔の記憶なので曖昧なのだが、確かM-1にはプロ部門とアマチュア部門があり、一般人の我々はアマチュア部門へ出場しなくてはならなかった。エントリーを完了し、まずはコンビ名を決めることにした。決めた経緯は全く覚えていないのだが、コンビ名は「せせらぎ」になった。

次に、ツッコミ担当とボケ担当を決めた。私は性格的にもアホで、友人はしっかりしている性格だったので、そのまま私がボケで友人がツッコミを担当しようということになった。

さて、問題はネタである。確かにお笑い芸人の漫才を見に行ったり吉本新喜劇を見に行ったりと、昔からお笑いは好きであった。しかし、いざネタを作ろうとなると、フレーズの一つすら全く思い浮かばない。若手のお笑い芸人やつまらない芸人を見て、こいつら面白くないなぁと散々文句を言ってきたが、改めて彼らは凄かったしこのように苦労してきたんだろうなと実感した。

更に問題があった。中学生である私達は、定期テストを控えていたのである。

 

 

かなり長くなったので、続きは後半に書く。