嘘つきな友人の話

その昔、小学生の時に嘘つきな友人がいた。

彼女は嘘つきな上に自己中で、乱暴な性格だった。彼女の家に遊びに行った際に苦手な紅茶が出され、私が「紅茶飲めないんだ...」と申し訳なさそうに言ったところ、「ママは仕事だってしてるし忙しいのに、わざわざ紅茶入れてくれたんだよ!?ママが一生懸命入れた紅茶を飲まないって言うの!?!?」と詰め寄られ、泣きながら紅茶を飲まされたぐらいには乱暴で自己中だった。

ところで、私の家の近くにはレモン坂と呼ばれる急な坂があり、レモン坂を登った先にはてんとう虫畑と呼ばれる、車が数台停まっているだけの広場があった。子供の頃からメルヘンなネーミングだなと思っていたが、メルヘンな要素は1つも無く、むしろ猫のフンとハエににまみれ、実に不衛生な坂と畑であった。

ある日、嘘つきと2人でてんとう虫畑で遊んでいた。すると嘘つきが「知ってる?ここにワニがいるんだよ」と言った。ワニなんてこんな住宅と猫のフンにまみれた場所にいるわけが無いことくらい、たった11歳の私にでもすぐ分かったが、否定すればまた屁理屈にキレられるかもしれない。

とりあえず「そうなんだ。ワニどこにおるん?」と話に乗ってみると、ある1台の車の前に連れられ、「この車の下におるよ」と言ってきた。車の下には、何枚か絨毯が敷いていたが、とてもワニがいるようには見えない。私が微妙そうな顔をしていると、嘘つきは「こっち来て」といい、車の裏に行った。

ついていくと、車の裏には看板が置いてあった。その看板には『朴』と書いてあり、真っ黒な人間と真っ黒なワニの絵が描かれてあった。少し不気味な看板だったが、更に続けて嘘つきは「この漢字はワニって読むんだよ」と言った。小学生の私にはその漢字がワニと読むのかどうか分からず、再び微妙な顔をせざるを得なかった。とりあえず、その日はそれで終わった。

後日、嘘つきと一緒にてんとう虫畑に向かった。すると、以前ワニがいると言っていた場所に車の姿はなく、絨毯だけ敷かれている状態だった。嘘つきはその下にワニがいると言っていたのだから、これは見てみるしかない。
嘘つきと共に絨毯の前に立つ。嘘つきが「めくるよ」と言う。私が「うん」と頷く。嘘つきが絨毯を静かにめくる。

いた。そこには紛れもなくワニがいた。いるわけないと子供ながらに思っていたが、たしかにワニが絨毯の下に敷かれていたのだ。別の意味で私は微妙な顔をして、黒緑色のペチャンコになったワニを見つめていた。

嘘つきが「ほらね、いたでしょ。」と言い、私も渋々納得して、その場を去った。

しばらくして嘘つきは引っ越し、てんとう虫畑はいつのまにか潰されて家が2軒建った。あのワニが何だったのか未だにわからないし、これから知ることもないだろうが、あの日だけが嘘つきが嘘をつかなかった唯一の日であったのは確かである。