ポケモンの話

以前トモダチコレクションにドハマりした話を書いたが、他にもゲームはちょこちょこしていた。

私がお気に入りだったのは、トモダチコレクションとニンテンドックスとポケモンであった。キングダムハーツとかマリオなどのああいった戦う物にはまるで興味がなく、育てたり支配するゲームばかりにハマった気がする。そもそも私は女性だし、縄文時代に男がマンモスに立ち向かうような戦いよりかは、断然母性を発揮させたいのだ。ニンテンドックスは犬に餌をあげたり散歩をさせたりして、実際に飼ってた犬よりも長く散歩をさせていた。今思えば飼ってた犬には申し訳ない気持ちでいっぱいだが、なにせゲームの中の犬は、画面をタッチしておけば勝手に歩いていくし、ウンコをしても画面をタッチすれば勝手に汚物が袋の中に入ってくれていたので、実際に散歩に行くよりもかなり楽であった。仮に面倒くさくなってウンコを拾わなくても、地球にはなんのダメージもないので、環境にもいいゲームであったと思う。

ところでポケモンだが、あれも私の中では、もっぱら育てるゲームだ。みんなはレベルをあげて戦わせたり、アイテムを集めたり、どこかのお偉いさんに戦闘を申し込んだりと必死だったが、私はそんなことはせず、ブルーを育てていた。

みんなポケモンは大好きなはずなのに、ブルーというとなぜかしっくりこない人がほとんどなのだが、全身ピンク色で、水玉模様のスカートを履いた可愛げのないブルドッグだと言えば、少しは思い出していただけるだろうか。あの可愛げのないブルドッグを育てるのに全神経を注いでいた。名前もマドレーヌと名付け、ひたすら持ち歩いていたが、戦わせることは一切しなかった。

では何をしていたかというと、ポケモンを散歩させる広場みたいなのがあり、そこでひたすら散歩をさせていた。ニンテンドックスといい、この手の育てる系のゲームは散歩しかすることが無いのだ。ポケモンなんだから戦ってレベルを上げろとお叱りを受けそうだが、マドレーヌだって元はと言えばブルドッグなんだし、戦うよりかは散歩の方が何倍も楽しいはずである。

そんなわけで、1日中その広場みたいなところで、特に何をするわけでもなく、ひたすら歩きまわっていた。今思うと本当につまらないが、当時の私はマドレーヌと散歩するのが楽しくて仕方なかった。

しかしながら、草むらなんかを歩いていると、野生のポケモンが現れて、勝手に向こうから戦いを申し込んでくることもある。そんな時は仕方なくマドレーヌを戦わせるのだが、一つ問題があった。

ブルーというポケモンは、進化すると、名前こそ忘れたがいかつい牙の生えた紫色のブルドッグと化すのだ。体もでかくなり、水玉のスカートを履いていた過去はどこへ行ったのかと思うほど、憎たらしい顔つきになる。

戦いに勝つと、どうしてもレベルアップしてしまう。可愛い可愛いマドレーヌが、あのいかついブルドッグになられては困るのだ。いつまでたっても可愛い姿でいて欲しいという、子離れできない親みたいなことを思いながらも、とにかくいかついブルドッグは避けたかった。なので進化しそうになると、Bボタンを連打して進化を止めるという地味な裏技を毎回していた。

そんなある日、学校から帰ってくると、休みだった父親が家にいた。なんだいるのかと思いながら、マドレーヌと散歩をしようとゲームを開いたが、マドレーヌの姿を見て目を疑った。

可愛かったマドレーヌが豹変してしまっていた。紫色の体はやたらガタイが良く、長ったらしい牙も生えている。昨日まであんなに可愛かったマドレーヌの姿は、もうなかった。最後の姿を見ることすら出来なかったことに涙が溢れた。

とりあえず部屋で寝転がっている父親を問いただすと、どうやら父親が何も考えずゲームを開き、何も考えずマドレーヌを戦わせ、勝手に進化させてしまったというのだ。

それを聞いた私は、ありったけの怒りを父親にぶつけた。私が可愛がっていたマドレーヌを、なぜこんな風な姿にしたのかとめちゃくちゃ責めた。当の父親はきょとんとしていたが、ゲーム関係であれほど心から悲しくなったことはない。あんなに可愛かったのに。花や赤ちゃんやペットを育てていれば愛着が湧くのと同じで、ゲームであろうが、必死で育てたマドレーヌが本当に可愛くて仕方なかったのだ。

ひとしきり父を責めた後、しばらく落ち込んでいると、父がゲームを持ってやってきた。開くと、どこから拾ってきたのか知らないが、見つけることすら難しいブルーを、お詫びとしてなんと10匹くらい捕まえてきた。父はこれだけ捕まえたから元気出しなと平謝りしてきたが、ちっとも嬉しくなかった。

こいつらはただのブルーであって、マドレーヌではない。マドレーヌは世界で1匹しかいないのだ。買ってた犬が死んで、代わりに同じ犬種を10匹連れてこられてもちっとも嬉しくないのと同じである。あの牙の生えたマドレーヌを試しに散歩させてみたが、全く気分が乗らなかったのですぐにやめた。

その件があってから、私は全くポケモンをしなくなった。マドレーヌを思い出すだけで、何も楽しくなかったからだ。

たかがブルーかもしれないが、されどブルーだ。1円で笑うものは1円で泣くように、ブルーに笑うものはいつかブルーに泣く日が来るだろう。

私はこれからも、一番好きなポケモンはブルーであると言い続け、マドレーヌとの楽しかった日々をたまに思い出して、楽しく暮らそうと思う。