性格が悪いじいちゃんの話

うちのじいちゃんは、孫の私が言うのもなんだがめちゃくちゃ性格が悪い。

趣味は人の悪口を言うことで、特技は人を馬鹿にすることだし、とにかく無愛想で、口が悪く、道端ですれ違った見知らぬ人に平気で文句を言うよな、全くタチの悪い人間である。

じいちゃんには息子が4人おり、私の父親は次男に値するのだが、いつも息子達の悪口を言っている。長男はデブだから早死にするとか、次男は本を読まないから馬鹿だとか、三男はどうしようもない捻くれ者だとか、四男はお人好しすぎるからあれは良くないとか、もはや存命していれば悪口を言われるのだ。ここまでくれば、欠点を見つける才能が優れているとしか思えない。なんであいつはあんなに捻くれているのかと永遠に文句を言っているので、「あんたの息子やからや」と周りからつっこまれると「そうや俺の子やからや」と開き直る始末だ。

先日、じいちゃん宅にお邪魔した。私達が家について早々、最近話題になっている森友学園の悪口を言っていた。悪口を言うのが趣味なじいちゃんにとって、もはやターゲットは誰でも良いのがよく分かる。

安倍は馬鹿だとか佐川は馬鹿だとか、いつもの悪口を一通り言い終わると、今度は悪口では飽き足らなくなったのか、よく分からない歌を口ずさみ出した。

♩でんでんむしむしかたつむり〜の歌なのだが、それの替え歌を歌い始めたのだ。

 

♩でんでんむしむしかたつむり

おまえの頭はどこにある〜

森出せカケ出せ佐川だせ〜

 

かなりしょうもない替え歌だが、じいちゃんはそれをあんまり嬉しそうに歌うものだから、思わずつられて笑ってしまったところ、父にものすごく怒られた。

佐川さんは父の直属の上司で、昔お世話になっていたことがあり、「佐川さんは悪くない!!良い人や!」と言い、じいちゃんはじいちゃんで「悪いのは佐川や!!」といつものように親子喧嘩が勃発した。

政治思想の違いで喧嘩なんて本当に勘弁して欲しかったが、じいちゃんに逆らってもロクなことがないので、孫である私はひたすらその様子を見ていた。

 

数日たって、就活に明け暮れていた私は、第2希望の会社の面接を受けに行った。

面接にある程度の準備をして行き、ドキドキしながら面接室に入る。

面接官に挨拶をし、なぜこの会社にしたのかとか、学生時代に頑張ったことはとか、よくある質問を一通りされ、私も、はいはいこの質問ねと言う感じでスラスラと答えていた。

すると面接官が、「今、気になるニュースはありますか?」と聞いてきた。

ニュースなんかほとんど見ていないので、全く想定外な質問であった。面接では時事ネタがたまに聞かれるという事は知っていたが、まさかここで聞かれるとは思わず、めちゃくちゃたじろいでしまった。

さっきまでスラスラ答えていたのに、突然考えていなかった質問を振られた私は、黙り込んでしまった。最近見たニュースを思い出そうと必死で記憶を辿っていると、あの政治問題が頭を駆け巡った。

しかし、突然の質問にパニックになったこともあり、あの一連の騒動の名前が思い出せない。総理大臣の顔とか、あの困り眉のメガネの男の顔まで思い浮かぶのだが、肝心の名前が出てこないのだ。

これはやばい、と思った。思い出せないことで更にパニックになり、「えっと...えっと...」とたじろいでいると、あの歌が脳内で再生されたのだ。

♩でんでんむしむしかたつむり

おまえの頭はどこにある〜

森出せカケ出せ佐川だせ〜〜

 

あぁそうだ佐川さんだと思いついた瞬間、「佐川さんが可哀想です!!」と絶叫した。面接官も、一瞬『は?』みたいな顔をしたが、すぐに「あぁ、森友学園ですね(笑)」と言った。しばらくシーンとなった面接室に、佐川さんが可哀想なんて言葉が響き渡ることになるとは、自分でも驚いた。何よりも、あのじいちゃんが歌った悪意に満ちた歌のお陰で、私の危機が救われてしまったことが一番信じられない。

後日、その会社から内定通知が届いた。悪口が趣味なじいちゃんも、たまには人の役に立つことがあるのだなと思った出来事である。