不審者に遭遇した話

私は5歳くらいまで大阪の団地に住んでいた。父の社宅であった。5歳までの記憶ということであまり覚えていないが、部屋は2つほどしかなく、トイレと台所と風呂場が1つずつある小さな一室であった。狭い和室には3月になればヒナ人形が飾られたが、私はお内裏さまの顔がとても怖く、彼の顔を見ては号泣していたので、親が不憫に思ってお内裏さまだけを反対に向けて置いていた。全くかわいそうなお内裏さまである。

また、和室の先には小さなベランダがあったのだが、私がおねしょをしたりヘマをやらかしたりすると、そのベランダに閉め出され、その度に大声で泣いていた。かなり近所迷惑であったと思うが、3歳の私にとってベランダはめちゃくちゃ怖かったものである。と言っても部屋は101号室で1階であったため、別に高いわけでもないし怖い要素はどこにもなかったわけだが。

団地に私の泣き声が響き渡る以外は、非常に静かで平和であった。閑静な住宅街とはこのことを申すのだと思った。

しかしある日、この閑静な住宅街に変なおじさんが出たという噂が立った。噂が立ったわりに、どのように変なのか全く分からなかったが、気をつけようと思った。

数日経って、団地のすぐ下にある水場みたいなところで、1つか2つ上の友人と遊んでいた。何をしていたかは覚えていないが、ままごととかそんなんだったと思う。友達と何事もなくままごとをしていると、突然、どこからともなくおじさんがやってきた。

おじさんは地味な服を着ていて、顔も覚えているような覚えていないような、特に印象に残らない顔をしていた。おじさんは「何してるの??」と聞いてきた。突然現れたおじさんにかなり警戒心を抱いた私であったが、2つ上の友人は何とも思わなかったらしく、「ままごとだよ」と普通に言った。

するとヤツは「おじさんも一緒に入っていい?」と言ってきた。更には2つ上も「いいよ!」と何の問題もなく承諾したのだ。

こいつめ、私より2つ上のくせに、全く危機感がなさすぎる。若干3歳の私の方がよっぽどちゃんと警戒心を持ってるし、このおじさんに対してもうちょっと疑ってもいいだろうが、と思った。しかし、下っ端の私にそんな発言力はなく、仕方なくヤツも交ぜてやった。するとヤツは、作業をする友人の後ろに座り、私と向かい合わせになるような形でしゃがみこんだ。

 

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ヤツは私の前にしゃがみこんで、こう言った。

「変なおじさんが出た話、知ってる?」

3歳児の私は「??」という気持ちと「まさか...」という気持ちが入り混じった。するとヤツは「実はな、それおじさんのことやねん」と言い、ウンコ座りした自分の股間部分を指した。

指の指す方を反射的に見てしまったが、ズボンが綺麗に丸形に切られ、本体は出ていなかったもののパンツが丸見え状態になっていた。

私は思わず「うわあ!」と叫んだ。するとヤツはニヤっとして、何も言わずにそのまま立ち去った。

ヤツはそのまま向かいの公園で遊んでいる子供達の姿をじっと見ていた。何をするのかと観察していたのだが、親がいたからであろうか、そのまま歩き出してどこかへ消えて行った。

私がこんなやばい状況に遭遇している最中、友人は作業に夢中でしかも危機管理能力がないので、ヤツには全く気づいていなかった。途中で帰ったことすら気付いていなかったと思う。

パンツだったから良かったが、もし本体が出ていたら私は男の人に対してトラウマになっていたかもしれないし、あわよくば襲われていてもおかしくなかったと言える。不幸中の幸いというか、恐ろしいような、不思議な体験をした気分であった。